農業の本を紹介します! 1 キレイごとぬきの農業論

キレイごとぬきの農業論 久松達央著 新潮社 2013 (新潮新書)
 請求記号S611.7ヒサ(新書コーナー)

 著者は脱サラして、「有機農業」を行っている人です。こう書くと、プロの農家の方は、ああまた、「そういうタイプ」と思うかもしれません。そういうタイプというのは、人間関係に疲れた都会から脱出して、自然いっぱいのところで人間らしい仕事がしたい、うんぬんという雰囲気です。実は、著者もこの本の中で、当初、そういう甘いところも少しはあり、役所に相手にあまりされなかったり、まわりの農家から不思議な目で見られたりしたことも書いてあります。
 実際には、都会よりもはるかに地方の方が人間関係が濃いですし、農業は、サラリーマンに比べるとはるかに大変な仕事です。
 しかし、それでも、この著者が農業をやるのは、それが実は「ビジネス」として有望であり、しかも、それがいわゆる「悪いビジネス」ではなく、環境との共生や、本当においしいくて健康なものを求める人に応えるものだからです。
 著者が有機農業をやるのは、安全だからというわけではないと言います。実際、農薬の害が問題になって以来、極めて厳しい基準のもと、現在、使われる農薬は安全性の高いものに変わってきています。農薬を使っているから危険というわけではありません。
 著者が有機農業をやるのは、おいしいものを作りたいというこだわりからではないでしょうか。そして、おいしいものがほしいという人がいる限り、このビジネスは成り立つわけです。
 「農業」も立派な「ビジネス」であると証明している本です。

(山重壮一)