悲しいお知らせ

 高知市民図書館を立ち上げた渡辺進さん(88歳)が2014年11月1日午前0時59分に急性肺疾患のため、高知市内の病院で亡くなりました。告別式は6日正午から午後1時まで、高知市知寄町3-501-2のベルモニー会館知寄で仏式で行われます。喪主は長男の武さんです。

 一部の研究者や学生だけではなく、市民皆に図書館を利用してもらおうと、分館・分室を設置し、移動図書館を巡回させ、さらに、障害者のことも忘れてはならないと、福祉施設として整備されるより先に、図書館内に点字図書館を設置し、図書館での出版事業を行い、レコード・コンサートや映画会なども開催して視聴覚資料の充実も図りました。移動図書館には、農業改良普及所の職員も同乗させ、本を貸すとともに相談にも応じるといった、先進的な取り組みをされました。

 これらの取り組みは、第2次世界大戦後の日本の公共図書館の発展に大きな影響を与えました。当時、利用が低迷していて悶々としていた図書館の世界で、高知市民図書館は「希望の星」と言われる全国的に飛び抜けた貸出実績を持っていました(現在は平均的な数値となっています)。このことに注目した日本図書館協会が調査団を派遣し、『市民の図書館』(日本図書館協会 最初の報告書は96ページで1960年刊、普及したものは新たな内容による1970年刊の151ページのもの、現在も刊行されているものは1980年の増補版168ページ)というレポートをまとめ(いまだに絶版になってません)、それが、通称、「中小レポート」と呼ばれるレポート(『中小都市における公共図書館の運営』日本図書館協会 1963年初刷)に結実し、図書館は蔵書規模を誇る大図書館がよいのではなく、市民の身近にある中小の図書館こそ図書館だという路線ができあがりました。住民みんなに図書館をという発想が分館・分室網、移動図書館、そして、コンピュータによるシステム化、ネットワーク化へと思想的にも発展していったものです。これらは、公共図書館界半世紀の論議と実践の努力の結果で、国策ではなく、図書館自ら、自治体自らがつくりあげた政策です。図書館のみならず自治の在り方の根本に関わる成果です。

 市民の図書館の3つの柱があります。1 貸出の重視 2 全域サービス 3 児童サービスです。要するに、一部の時間のある人やいわゆるエリートが、図書館に閲覧に来るということではなく、日常生活や仕事の中ですべての住民が本を身近に活用することを目指したということです。

 ご冥福をお祈りいたしますとともに、今日の日本の公共図書館の基礎を築かれたことに尊敬と感謝を送ります。